Siriusチームのリーダーおよびソフト班の田所優和です。
今年度のARLISSでは、「異なる2機のローバーで協力しながらゴール地点を目指す」というミッションに取り組みました。具体的には、GPSセンサを搭載した「GPSローバー」とカメラを搭載した「カメラローバー」の2機が、通信によって相互に情報を補い合いながら数km先のゴール地点を目指します。本ミッションにより、GPSセンサ・カメラのそれぞれが故障した状況にあっても、複数機が通信することでミッションが続行できることを実証します。
このミッションの難しさは、主に以下の点にあります。
- 機体重量・サイズの半減:
大会ではレギュレーションとして重量とサイズの制限が厳密に定められています。
2機で大会に参加するためには1機あたり例年の半分の重量・サイズで製作する必要があります。
しかし、走破性の担保のためには重量の軽いモーターを使用することはできません。そこで、他の部分(タイヤホイール・シャーシ・電池ボックスなど)へ落下衝撃に耐えられる極限まで徹底した穴あけを行って軽量化し、規定である1050g以内に収めました。
また、回路基板のサイズも半分にする必要があったため、マイコン・センサ・通信モジュール等の部品配置は回路を設計する上での大きな障壁となりましたが、回路班が試行錯誤を繰り返し何とか乗り切ってくれました。 - GPS情報の補完による2機ナビゲーション:
2機のうちカメラローバーはGPSセンサを一切搭載していません。
そのため、カメラローバーはGPSローバーからGPS座標情報を受け取らない限りはゴール地点への走行方位を知ることができません。
本ミッションでは、LoRa通信モジュールによって定期的にGPS座標情報を送受信することで、片方の機体がGPSセンサを使用できない状況においてもナビゲーションを可能にします。 - 一定の距離を保ちながらのナビゲーションの必要性:
2機がゴールへ到達するためには、ただ単にGPS情報を伝達するだけでは不十分です。
重量・サイズの制約から機体には別途アンテナを搭載できないため、機体間の通信可能距離は最大でも40〜50mに限られます。
そのため、ミッション中に距離が離れたときに通信強度の推移をもとにもう一方のローバーに接近させる必要がありました。
ただし通信モジュールを複数個搭載することはできないため、通信強度は1軸のスカラー値でしか取得できません。かつ強度値のぶれも非常に大きなものです。
本ミッションでは「接近動作アルゴリズム」を独自に開発し、この限られた通信強度情報をもとに狙った方位へ動き回ることでもう一方のローバーに接近することを実現しました。 - 様々な異常を考慮したミッションフローの必要性:
機体が2つになることで、考慮しないといけない異常ケースの種類は格段に増加します。
砂漠環境は轍(車のタイヤ跡)や凹凸が多いため、走行中のローバーはスタックの危険性と常に隣り合わせとなります。
この際、1機のみのミッションであれば「GPS情報をもとにスタック判定→スタックしていれば抜け出し動作に入る」だけで良いのですが、今回のミッションの場合は以下の全てのケースに異なる判定方法と異なる対応動作を行う必要があります。- GPS機が轍にスタックした場合
- カメラ機が轍にスタックした場合
- GPS機の電源が何らかの原因で切れた場合
- カメラ機の電源が何らかの原因で切れた場合
- 走行中に2機間の距離が離れ,通信強度が低下した場合
- 走行中に2機間の距離が離れ,通信が切断された場合
これらを考慮した複雑なミッションフローを実現するために、今年度は昨年度まで開発してきたローバープログラムを再利用せず1から組み直す必要がありました。
ARLISS大会結果

また、2回目の投下でGPSローバーがゴールとの距離7.17mを達成し、「Accuracy Award 第3位」を受賞しました!
今年度は砂漠のコンディションが比較的良いこともありレベルの高い大会となりましたが、その中でもゴールへの到達とミッションの意義を評価いただき全団体中で2位という結果をいただくことができました。
以下、全2回の打ち上げの結果です。
- 打ち上げ1回目
- 記録: リタイア
- 打ち上げ直後に砂嵐が発生し、機体が地面に打ち付けられながらパラシュートごと風に流されたことで、タイヤ・車軸・モーターなどの駆動系が大きく破損してしまいました。
- 2機とも回路およびソフトウェア自体は正常動作していたものの、反転した状態で着地したGPSローバーが衝撃による変形が原因で反転復帰動作を完了できませんでした。
これによりGPSローバーからカメラローバーへのGPS座標の共有も行われず、2機ナビゲーションを開始することができませんでした。
- 記録: リタイア
- 打ち上げ2回目
- 記録: 7.17m
- ミッション中、接近動作アルゴリズムは4回実行されました。
- 1〜3回目は成功しました。
- 4回目は通信が完全に切断されたことで通信強度を取得できず失敗し、2機それぞれが単体でミッションを続行することとなりました。
- GPSローバーはゴール付近に到達して制御を終了しました。
- カメラローバーはGPS情報が一定時間受け取れなかったため、GPSなしナビゲーションモードを作動させました。
最後に受け取ったGPS座標をもとにGPS情報なしでナビゲーションを行いましたが、距離に対する所要走行時間の見積もり誤差によってゴールを通り過ぎてしまい、約400m奥の地点に到達したところで制御を終了しました。
- ミッション中、接近動作アルゴリズムは4回実行されました。
- 記録: 7.17m
- 予備実験
- 打ち上げ2回目の後、予備実験として「GPSローバーの位置はゴール7.17m地点そのままで、カメラローバーのみを回収してゴール約3m地点に持っていく」という実験を行いました。機体電源やプログラムの再起動などは行わず、あくまで「カメラローバーをゴール地点付近へ持っていく」という操作のみを打ち上げ2回目の続きとして行いました。
- ゴール付近で2機間の通信が自動的に復帰し、2機ともにゴール付近5mに到達したと判定しました。
- ゴール付近判定後、カメラローバーは画像検知によるゴールコーン検出動作に入りました。
- カメラローバーがゴールコーンを認識および接近して0m地点へ到達すると、止まっていたGPSローバーが動き出してカメラローバーへの接近動作を開始しました。
- 最終的にカメラローバーが0.01m地点、GPSローバーが1.77m地点に到達し、ミッションの最終目標である2機ゴールを達成しました。
- この実験の結果から、2機の通信が完全に切れる不具合が発生しなければミッション成功を実現できた可能性が示されました。
- 打ち上げ2回目の後、予備実験として「GPSローバーの位置はゴール7.17m地点そのままで、カメラローバーのみを回収してゴール約3m地点に持っていく」という実験を行いました。機体電源やプログラムの再起動などは行わず、あくまで「カメラローバーをゴール地点付近へ持っていく」という操作のみを打ち上げ2回目の続きとして行いました。
↑ 予備実験後の計測の様子
本大会では最終目標である2機でのミッション成功には惜しくも至りませんでしたが、途中地点までの2機ナビゲーション成功とGPSローバーのゴールという結果から、マルチローバーミッションにおける新たな可能性を見出すことができました。
最後に
私たちのチームのミッションはハード・ソフト・回路の全てにおいて過酷なものでした。そのためチームメンバーの方々には大変な苦労をかけることになりましたが、そんな中でも本番までチームのために努力し続けてくれたメンバーのみんなにはとても感謝しています。
また、本大会での結果は高玉先生およびD3の先輩方の大会期間中のサポートなしではあり得ませんでした。大変感謝しております。
来年度は現D3・M2の頼もしい先輩がご卒業されてからのARLISSとなり少し不安もありますが、私としては最後のARLISSとなるので精一杯頑張りたいと思います。
来年のミッションが何になるのか、今から楽しみです。
↑ 機体をロケットで打ち上げる前の記念撮影
↑ ゴールしたGPSローバー、無線で連絡を取るメンバー
↑ 競技終了後のプレゼン発表の様子